汝自らを知れ「SUPERMAN/BATMAN ANNUAL #2」

目次

SUPERMAN/BATMAN ANNUAL #2

あらすじ

「お前は何者か?」

異なる人から、異なる場所で、同じ問いを投げかけられたスーパーマンとバットマン。

誰にも聞かれない胸の内の独白で、彼らは答える。

‟私は死せる惑星の最後の息子。人知を超えた能力を有する宇宙人であり、私の父から地球へ贈られた恩恵でもある。私は穏やかなカンザス地方で育った農家の息子。そこで得た確固とした労働倫理と揺るがぬ節義は、地球の父母からの贈り物

‟私は悪臭漂う街が吐き出した闇。悲鳴、炎。切傷と打撲。恐怖、銃声の寸前に響く哄笑。私は地球上でも指折りの資産家であり、最高の嘘つき。高級車写真映りの良い女。それらで装飾された仮面には傷一つない。今やかすかに痙攣する肉塊と成り果てた、かつて父と母だったモノの傍に膝をついている少年。それが私。毎夜、夢に見る。当たり前に得られたはずの愛や人生が、彼らの血と共に下水に流れていく”

ヒーローと力

メトロポリス。

ロイス・レーンはスーパーマンへの独占インタビューを行っていた。

「スーパーマンとは何者なのでしょう?」

「私はただの男ですよ。ここに手助けに来ただけのね」

「‟ただの男”ね…」

その答えに、ロイスはさらに踏み込んだ質問を投げかける。

空を飛び、易々と星を持ち上げるスーパーマンの人知を超える力。

あなたは確かに自分たちを助けてくれているが、そんな脅威的な男が本当の意味で普通の人間、自分たちと共に歩めるのか

それに対してスーパーマンはさわやかな笑顔で答える。

「如何なる人物であるかという判断は、その人の行動によって下されるべきだと、私は常に信じています。単純なことではないでしょうか。行為そのものの難易度は関係ありませんよ」

 一方その頃…


…別所の狭い一室で、一人の男が息絶えていた。

男は死ぬまで小説をタイプし続けたのだ。

崩れ落ちた男に、何者かが声を掛ける。

「試練なき人生に価値はない」


別の日の早朝、ゴッサムのウェイン邸をクラークは訪れていた。

執事のアルフレッドはいつもの穏やかさでクラークを迎え入れてくれたが、それにひきかえ、家主のブルース・ウェインはいつもに輪をかけて不機嫌な様子。

「16時間寝ていないところに、君のスローモーな南部なまりのせいで頭も痛い」

朝食の席に着いたクラークとブルースはまずジャスティスリーグについて話し始めた。

団結して悪と戦うリーグの在り方にもともと乗り気なクラークは、バットマンにもリーグ参加を求める。

が、ツンデレ界でも一二を争う高レベルな気難しさを誇るバットマンことブルースウェイン(おねむ)は「ヒーロー部(失笑)(真顔)」な態度を崩さない。

そもそもブルースは、リーグがどうこう以前に最近のクラーク、ことスーパーマンに不満があるようだった。

チャリティ活動やロイスとの関係にまで否定的な口出しをされて、さすがのクラークもブルースに対し険悪な物言いになっていく。

「ウェイン。僕がここに来たのは君ともっとお互いに近しく活動が出来ると思っているからだ。互いに、シークレットアイデンティティを知る者同士…」

「ほう?君がいう‟活動”とは、いくつもの命を救える半日を、レポーターといちゃつくのに消費することかね?」

次第にヒートアップし、互いに席を立ち歩み寄り始める二人。

にらみ合いがに続く。

「これが僕だ。スーパーマンである以前に、僕はクラーク・ケントだ」

「クリプトンでお前はクラークと呼ばれるか?」

「僕を断じる君は何者のつもりだ?」

「私?私は毎夜一人、汚辱と芥に塗れるただの男だ。そしてお前は…お前は力だ。純粋な力そのもの。それ以外の何でもない」

「僕は…!」

「お二人とも」 

一触即発の二人の間に割り込んだのはアルフレッドだった。

「お前は何者だ?」

アルフレッドがキャッチした情報によると、ゴッサムの金融街で大量の金がばらまかれていると言う。奇妙な事件に現場は混乱し、収集が全くつかないでいる。

急ぎ現場に駆けつけるスーパーマンとバットマン。

さっきまで喧嘩してた割に、現場では軽口を叩きながら、まずまずの協力を見せる。

金に目がくらんで集まった人々を蹴散らしながら、バットマンがきつい言葉を吐き捨てる。

「さっさと家に帰れ。さもなくば病院送りだ」

「彼らは市民だぞ。もっと丁寧な口の利き方をしたらどうだ?」

「黙れエチケット野郎」

そんなこんな言い合ってるうちに、バットマンは地面に倒れこんでいるゴッサムナショナル(銀行)の取締役を見つける。

まき散らされている金は彼の銀行のものだった。

彼自身は地面に力なく横たわり、虫の息の状態で何やらうわ言を呟いている。

彼は震える指で空を差した。正確には屋根の上を。

そこには謎の男が立っていた。

スーパーマンは即座に飛んで男のそばに浮かんだ。

男が何をしたかもわからない。証拠もない。しかし、とりあえず来てもらおうか、と割と雑な理由で拘束しようとするスーパーマン。

そんなスーパーマンに、男は慌てもせず、静かに問いかけた。

「お前は何者だ?」

「私はスーパーマンだ。何をしようとしているか知らないが、やめるんだ。これ以上は…」

スーパーマンは答えたが、それは男を納得させる答えではなかったようだ。

「お前は、お前を、何者だと?」

その時突然男の身体が発光し、スーパーマンを襲う。

驚きから我に返ると、今度は上空から不審な物音が。

見上げてスーパーマンは目を見張った。

「びっクリプトン」

それはあまりにも唐突に、ゴッサム上空に現れた。

隕石が、まっすぐ街に向かって落ちてくる。

これにはバットマンでさえ対処できない。

だが一人だけ。この窮状を救える男がいる。

スーパーマンは考えるより先に行動していた。

隕石に向かって、迷いなく飛んでいく。

(最期に聞こえたのは叫び声だった。それは私から発せられたものだった)

スーパーマンはは燃え立つ隕石の光に飲み込まれ、そして…

消えたヒーロー

ゴッサムを突如襲った隕石墜落事件から、どれだけ経ったのか。

ところ変わって…穏やかなカンザス・スモールヴィルの片隅。

そこにはやはり穏やかに年老いたケント夫妻が住んでいる。

トラクターの整備をしていたジョナサン・ケントは、家の前についた車に気づき顔を上げた。

車を降りた青年は、困ったような悲しそうな目で微笑んでいた。

「エコノミークラスって結構匂うんだね」

それを聞いたジョナサンの目に、涙が浮かぶ。

「それじゃあ…本当に」

「そうだよ」

「スーパーマンはもういない」

(強さも、鋼の肉体も、空も失ったけれど、まだ父さんの腕を感じることが出来る。神よ、感謝します)

ゴッサムは隕石から救われた。その代償は、スーパーマンのスーパーパワーだった。

そして元スーパーマン、文字通り”ただの男”になったクラークは、守るべきメトロポリスを離れ、田舎に帰ってしまったのだ。


その頃、バットマンはゴードンに協力しつつ、謎の男…ミスターソクラテスの関与が疑われる事件に取り組んでいた。

様々な情報を集め、前述の小説家など、ミスターソクラテスの影がちらつく事件の内容を総合し、バッツはソクラテスの目的は「求められた試練を与えること」だと推理した。

スリルを求める男は「死の願望」に最も近づきすぎたため、自らを鰐に食わせた。銀行家には最大の選択を迫った。つまり自分の命か銀行の資産か。作家はライフワークである創作活動を文字通り死に物狂いで行い、結果死亡した…

推理を終えケイブに戻ろうとするバットマン。

その背に、ゴードンが声を掛ける。

「ところでスーパーマンはどうしてる?」

「どういう意味だ?」

「最近全然見ないじゃないか、調子でも悪いのかな」

「知らんな」

短く答えたバットマンに、ゴードンは意味深に続けた。

「ほう、そうなのか…。いやなに、私はてっきり…君たちは友達なのかと思ってたよ」

トモ…ダチ…?

世界に必要なもの

スモールヴィル。

完全に農夫の出で立ちでいるクラークの元に、歩み寄る人がいた。

カンザスに似つかわしくない姿のその人は、ブルースだった。

ケント夫人にもらったものの、好きではないレモネードをクラークに押し付け、調子はどうかと世間話のような前置きから始まり、最終的にはソクラテスについて話し始めた。

自分がソクラテスの目的に気づいたこと。どうやら奴は満たされない想いを抱く金持ちに「試練」をふっかけているということ。

ソクラテスを倒すことがクラークに力を取り戻させる一歩になるだろうこと。

しかし、クラークは自分の身に起きたことへの苛立ちを隠さず、聞く耳を持たない。

「スーパーマン…」

「クラークだ」

「ママのエプロンの下に隠れていたって、力は戻らないぞ」

ブルースのその一言が引き金になった。クラークは激高した。

「力を失った僕は何者だ?何もない!ああそうさ、まさに君が言ったことじゃないか!!」

 力任せに握り、叩きつけたグラスの破片が、クラークの皮膚を裂き、傷口から血が滴る。殴りつけた岩が砕けない。

「そうだろう…?」 

クラークを連れ戻すことに失敗したバットマンは、ゴッサムに戻るしかなかった。

普通に帰ってきてる

 

ロビン(ディック)が懸命にソクラテスの情報を報告するが、バットマンはどこか上の空。

スーパーマンを失ったメトロポリスの治安が悪化している状況を、モニター越しに眺めながら、唐突にロビンへ尋ねた。

「お前はスーパーマンをどう思う?」

「…」

「はっきり言っていいぞ」

「うん…その…彼は本当に素晴らしいよ」

「そうだな。飛行能力に人知を超えた力、それから…」

「それだけじゃないよ。そういう能力は他のヒーローやヴィランも持ってる」

スーパーマンファンでもあるロビンは、はっきりとした言葉でスプスを評価しはじめる。

「正義と真実…そしてアメリカンウェイ。彼にとってこれは単なる口からでまかせじゃない。本当に信じてる。どんな悲劇が起きようと、希望を持っている…そういうヒーローがいてくれるのって最高だよ」

 「ゴッサムにはバットマンとロビンが必要さ…でも、世界にはスーパーマンが必要なんだ」

バットマンはロビンの言葉を、黙って聞いていた。 


そして、ある日のメトロポリス。

スーパーマン不在のメトロポリスでメタロが暴れていた。

しかし、それを一瞬にして破壊する赤い影があった。

「空を見ろ!」

「あれは…彼なの?」

「彼が戻ってきた!」

メトロポリス市民が歓声を上げる。

メタロを倒した男は、赤いマントを翻し、ビルの上に降り立ちます。

スーパーマンが帰って来た!歓喜の声は次第に大きくなり、止む気配はない。

民衆の声は屋根の上にいるスーパーマンにも届いていた。

満足げな様子で、彼らを見下ろすスーパーマン。しかしその正体は

 街に平和が戻ったのを確認すると、スーパー(ブルース)マンは飛び去った。

それでも人々の喜びの声は止むことがない。

まさかのスーパーマン復活。人々の喜び。

それは遠いカンザスの地でもテレビ放送されていて…

「誰だったの?」

「ともだち…」

「パパ…空港まで送ってくれない?」

 

ヒーローであり続けるために

ソクラテスの仕業と思しき事件を、あと一歩と言うところで逃したロビンとバットマンはバットケイブに帰ってきた。

そこではいつものようにアルフレッドが待っていてくれたが……その日はもう一人。

 「お客様です」 

ロビン「どひえ〜〜〜〜〜〜〜」

「ロビン。ようやく会えたね」

「すーぱーまんがうちにいる」

「…クラークと呼んでくれ」

「あ。はい…ぼくはでぃっく…リチャード!リチャード・グレイソンです!サー・スーパーマン…」

「はは…いや本当に…ただ、クラークと」

「は、はい、くらーくまん…」

 憧れのスーパーマンに会えてすっかりのぼせてしまったロビンは、アルフレッドに部屋から連れ出されていった。

そしてその場にはバットマンとスーパーマンだけが残された。 

「君って本当に黒が似合うんだね。今後もそのスタイルでいたほうがいいよ。赤と青は君が着ると尻がでかく見える」

クラークも言うじゃな〜〜〜〜い???

軽口の応酬を終えると、クラークは本題に入った。

「真面目な話…ブルース、本当にありが

「ここに泊まる気か?」

クラークの足下の荷物を指して、バットマンが言う。

「…もし君が許してくれるなら、僕をここに置いて欲しい」

「なぜ」

「僕はまだ終われない。力の有る無しは関係ない…逃げるわけにはいかない」

「だけど… 今の僕には助けがいるんだ」

トモ…ダチ…

バットマンとスーパーマン。

二人のヒーローが互いに支え合う決意を固めたその時、インターネット上では、ある掲示板に載せられたこんな文章に注目が集まっていた。

 “助けが欲しい。私のこの人生や財産、私に何かしらの価値があるのか…誰か教えて欲しい。

「誰か助けてくれ。誰か答えてくれ  ブルース・ウェイン」

 声に出してそれを読み上げた男は、キーボードに手を伸ばした…。 

ヒーロー訓練

クラークのスーパーマンとしての強さはクリプトニアンの性質であり、ブルースのように鍛錬で手に入れたものではない。

その性質が失われた今、クラークがヒーローとして活動するには、地道に自分を鍛えるしかないのだ。

バットマンによる厳しい訓練が始まった。

日夜容赦無くブルースにぼこぼこにされるクラーク。

ブルースはクラークを冷たく罵ったり叱咤しながら、淡々と試練を課してくる。

割と鬼畜なロビン

「ふぬぬぬぬ」
「がんばって!もう二回!」
「五回だ。ケントさんがお遊びでヒーローをやろうってんじゃないならな」

何を鍛えているのか

スパーリングではサンドバックにされ、ランニングでは置き去りにされ、辞めたいならいつでも辞めていいんだと時に突き放されながらも、クラークはなんとかロビンとバットマンに食らいついていた。

ブルース軍曹厳しすぎ

バットマンはクラークを鍛えつつ、一方ではミスターソクラテスを追っていた。

ネット上に吊るした餌に食いついた男とメールを何度もやり取りし、ついに直接会う段階まで漕ぎつけていた。

メールの相手はプラトーと言う男。彼はブルースウェインの載せた「本当の自分が知りたい」というメッセージに答えてきた。彼はソクラテスの仲介役らしい。

バットマンは「ブルース・ウェイン」という「空虚な金持ち」という餌をちらつかせて遂にソクラテスに辿り着いたのだ。

実戦

そして、地獄のウェインズブートキャンプ開始から1ヶ月が経った…。
バットマンはついにクラークを実戦に連れて行くと決めた。

ソクラテスを倒しにいくのではなく、まずは普通にゴッサムの犯罪に当たらせるつもりらしい。

どういうわけか、バットマンはソクラテスの件をまだクラークに一切話していない。

クラークはスーパーマンでなくなってから初めての実戦…

新ヒーローとしてのデヴュー戦に興奮しながら、バットマンからもらったジェットパックを背負い、やる気満々な様子。

「用意してたコスチュームに着替えてくる!」と部屋を出て行った。

クラークの姿が見えなくなると、ロビンはバットマンに恐る恐る尋ねた。

「…彼、大丈夫だと思う?」
「お前はどう思う」
「正直に言っていいの?…まだ一ヶ月だよ。わかってるでしょ。なのに、どうして彼を連れてくの?」

バットマンは答える。

「最も重要な教訓は、ケイブの中で学ばせることは出来ない、ロビン。…お前は知っているはずだ」

不穏なバットマンの言葉。その真意はすぐに判明する。


犯罪多き夜のゴッサム。

暗い夜道で、女性が物盗りに襲われている。悪漢は彼女に銃を突きつけ、金目のものを奪おうとする。

しかしそこへ一人のヒーローが駆けつけた

コスチュームダッセry

スーパーマン改め新星ヒーロー「スーパーノヴァ」は物盗りを淡々と打ちのめした。

バットマンとロビンの姿は見当たらない。彼らはどこかでスーパーノヴァのデヴュー戦を観察しているらしい。

クラークが本当に一人でやれるのか…試す彼らの視線に、勿論クラークも気づいている。だからこそここで、成果を証明したいと思っていた。

特殊能力もない、ほぼ一般人の物盗りを、クラークはあっけないほど簡単に叩きのめした。伊達にバットマンに罵られて殴られてきたわけではない。

脅威を排除したと確信したクラークは座り込んでいる女性に優しく声をかけ、手を差し伸べた。

しかし…

「ゴッサムへようこそ色男さん♥♥」

女性の手を握った瞬間、クラークの身に衝撃が走った。女性の手には悪戯で人を感電させるおもちゃは仕込まれていたのだ。それも悪戯と呼べる電圧ではない、大の男が動けなくなる威力に改造されたものだ。

こんなことをするゴッサムの住人は一人しか居ない。


女は変装したジョーカーだった。

まんまとだまし討ちをされ、地面に倒れ込んだままクラークは身動きができない。その頭にジョーカーが銃を突きつける。


混乱したクラークの頭に断片的な考えが浮かんでは消える。

(銃)
(僕は死ぬのか)
(やつが笑っている)
(殺される)

クラークが倒れた姿勢のまま、ジョーカーに腕をかざすと、そこから炎が発射された。バットマンの趣味なのか、容赦のないギミック…。

強力な火炎放射を顔面に食らったジョーカーは慌てて逃げ去った。

(最期に聞こえたのはジョーカーの叫び声だ)

(どうでもいい)

こうしてスーパーノヴァのデヴュー戦は散々な結果で終わった。

バットマンはこの結果をわかっていながら、クラークに行かせたのだ。
まんまとやる気やプライドをズタズタにされたクラーク。

意気消沈した背中…鞄にコスチュームを仕舞っている姿には哀愁しかない。

「私を軽蔑したければすればいい。だが、お前は知る必要があった」

「真実と正義など、狂人にナイフを突き刺された瞬間にはただの言葉でしかない。己の命をかけて戦う心地を、お前には理解してもらわなければならなかった。人の弱さ…助けも無い状況の無常…」

それはバットマンにとっての日常そのもの。類まれな人外の能力を持っていたスーパーマンが経験したことがなかったもの。

振り向いたクラークはバットマンを睨みつけた。


「僕は怖かった。怖かったよ。もう闇雲だった。君たちがいなかったら、僕はきっとジョーカーを殺していた」


普段のクラークからはなかなか想像できない台詞を吐き捨てる。

そんなクラークに、バットマンは静かに言葉を返す。

「それはお前が恐れを抱いているからだ。クラーク。お前は死ぬのが怖いんだ」
「君はどうやってそれを克服したんだ」
「一つだけ方法がある…だがそれを教えることは不可能だ」

それだけ言うとバッツは踵を返した。

「私はソクラテスに接触する。どうするかはお前が決めろ」


そしてそのままクラークを放置して、バットマンは部屋を出ていこうとする。

バットマンの言葉に驚いたクラークは思わず立ち上がって叫んだ。

「なんだって?待ってくれブルース、僕は…僕にはこんなこと、もう無理だ!」
「こほん」

態とらしい咳払いで割って入ってきたのは、今まで黙っていたロビンだった。
ロビンはつかつかとクラークの前に歩み寄った。

「ぼく…僕はスーパーノヴァについては知らないよ…だけど」


「…スーパーマンだったら諦めたりしないよ!」

ロビンはそれだけ告げてバッツのあとを追って出て行った。
一人残されたクラークは何を思うのか…

自分が何者であるか

「あなたが、プラトー?」

ブルース・ウェインは、外で男に会っていた。ソクラテスと繋がりがあるという男、プラトー。

金の詰まったアタッシュケースを抱えて気弱そうな演技を続けるブルース。
現場にはプラトーの姿しか見えず、ソクラテスは見当たりません。

不安げなブルースにプラトーが話し続けます。

「準備はお済みですか?貴方は今から、本当の自分に直面するんですよ…」
「ああ…だが、ソクラテスは?彼は何処に…?」

アタッシュケースを差し出すブルースに、プラトーも答える手を伸ばす。

そしてアタッシュケースを手にした瞬間、プラトーは空いた片手をブルースの目前に翳した。

いつの間にかプラトーの姿は、ソクラテスに変わっていた。

プラトーこそが、ソクラテス本人だったのだ。

「お前は何者だ?ブルースウェイン」

その問いと共に、ブルースの視界は一変した。

ロビン、両親、アルフレッド、ゴードン…見覚えのある人々の死体。

すぐ傍で子供が泣いている。それは幼い頃の自分

散らばる真珠。燃え盛っているのは愛するゴッサムシティ。

(私は、何者だ?)

(私の戦争…私の戦い…私が何をしようと…この街は緩やかに死に行く…数多の銃、刃、毒に侵されて充満する死…私は敗北する…この戦争に…


私が己の全てを捧げて行った全ては…何の意味も無い。私には何も無い。狂人…そうだった…私は狂人なのだ…)

「わたしは…狂人だ…!私は…!」
「ミスターウェイン!」

泡を吹いて地面に崩れ落ちたブルースに駆け寄って来たのは、隠れて待機していたロビンだった。

ロビンはブルースが痙攣で舌を噛まないよう、棒を噛ませ、ソクラテスに彼を解放するよう怒鳴る。


しかしソクラテスは、今度はロビンにもその手を伸ばしてくる。

しかしその時

「やめろ!」

駆け付けたのはクラークだった。

力が戻ったわけではないが、それでもクラークはやってきたのだ。

スプ(痛い…肋骨折れた…)

初戦敗北時の惨めさや恐怖も消えていない。それでも、とにかく、クラークは逃げずにやってきた。
しかし、不意を付けたのは一度きり。

バットマンが易々と使いこなしていたジェットパックもうまく使いこなせず壊してしまい、スーパーマンの格好をしてるのもあってか、スーパーノヴァの時のようなギミックもないので、あっさりソクラテスに打ち負かされてしまう。

顔を張られた際に、爪で引っ掻かれ、頬がズタズタにされてしまう。
痛みに流血。少し前には全く知らなかった感覚。

(またあの心地だ…アドレナリンが溢れる…逃げ出したくなる気持ちと比例して沸き起こる暴力衝動……恐怖…)
(ブルースはどうやってこれを克服しているんだ?)

「スーパーマン!」

クラークが声に振り向くと、暴れるブルースを必死に抑え込んでいるロビンが視界に飛び込んでくる。
ロビンの恐怖と混乱に染まった目は、涙ぐんでいる。

「彼…、彼、多分卒中を起こしてる!」

地面に倒れているブルースの姿を認めた瞬間、クラークの中で不思議な変化が起こり始める。

「無力となった心地はどうだ、スーパーマン」


ソクラテスが問いかけますがクラークは答えない。頬を伝う血を拭いながら立ち上がる。

(倒れているブルース)

「流れる血の感触はどうだ?痛みは?人を超越した力を失った超人とは何者だ?」

(ブルース、僕の友達…今彼は、死にかけている…)

「凡人となったら、お前に何が出来る?」

クラークは一歩一歩、歩みを進める。
(恐怖は最早感じない)
いつの間にか、頬の傷は消えている。
(僕が星の軌道を変える力を持つ男だろうと…高層ビルをひとっ飛びできるヒーローだろうとなんだろうと…とにかく今は)

特殊な能力があろうとなかろうと、クラークは泣いている子供、苦しんでいる友のために立ち上がれる。それこそがクラークという男であり、だからこそスーパーマンなのだ。

(“僕”は、そういった男でなければならないんだ)

立ち上がったスーパーマンの拳を食らったソクラテスは、後ろに吹き飛ぶとそのまま消えていった。


これで、ソクラテスという脅威は去ったかに見えた。しかし、ソクラテスの攻撃を受けたブルースは未だ苦しみ喘いでいた。
ロビンがブルースに発作を抑える薬を注射するが、譫言を繰り返すブルースの意識は、全くこちら側に戻ってこない。

「なにもかも無駄だった…なにも…」

泣きじゃくり、うわ言を繰り返すブルース。

その傍に膝をついたスプスは、ブルースに呼びかけ始めた。何度も何度も、ブルースの名前を呼ぶ。

「ブルース…ブルース…


バットマン…」

ソクラテスの見せる悪夢が続いているのか、それともブルース自信の意識の深層部なのか、暗く淀んだ汚水に踞って、両手で顔を覆い、バットマンはひたすら泣いていた。

(なにもない…何にもならなかった…)

「バットマン聞いてくれ」

(何もかも無駄だった。市民は堕落の道を辿り…私はそれを止めることは出来ない)

「君のしていること…君の戦争…戦い…」

(私には何も…)

「君の戦いにおいて勝利とは…人の命を救うことだろう…一人の命を救う…それこそが勝利だ…」

どこかから聞こえる声に、バットマンは漸く顔を上げる。

「……わたしは…この戦争に勝てる…?」

「そうだよ。僕の命を救ったように」

「自分の目標を失った時、僕はもう終わりだと思った…だけど君が教えてくれたんだ。人はなろうと望み励むことで、何にでもなれる」

「多くの人々にそうであるように、君は僕にも希望をくれた」

「戻って来てくれ」

その言葉と共に伸ばされた手を、バットマンはしっかり掴み返した。

「その………ありがとう…」

ヒーローたち

ソクラテス事件はこうして終わった。

力が戻ったスーパーマン、絶望の闇から帰ってきたバットマン。二人はおなじみの高い場所にいた。


「スーパーマ…、……クラーク」

「その…君には本当に感謝している…それから…君を過小評価していたことを謝罪するよ。すまなかった…」

「だが…私にハグをしようなんて思わないだろうな?君はハグ大好きマンのようだし…」
「あー…それはまた次に、もうたまらない!ってくらい感極まったらにするよ…」

「それじゃ、とりあえずジャスティスリーグの案について話さないか?」
「二言。“絶対、嫌”」
「他の二言にしないか?例えば…“とりあえず、考えさせて”とか」
「………言ってろよ」

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この記事を書いた人

フィンランドに住みたい研究者かつフリーのWebデザイナーかつコーダー。
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