近所に大きい犬がいる。白と茶色がマーブルに混ざり合った秋田犬の女の子だ。
朝、その子がお散歩に行く姿を見かけたらラッキー。大人しい子で、自分で自分のリードの一部を咥えて歩くのが癖らしい。かわいい。
わんわんって元気な声が聞こえたら今日も元気だなって思える。彼女はめったに吠えないんだけど、最近、別のご近所さんがミニチュアダックスを二匹飼ったようで、彼らが吠えるのに呼応してたまに吠える。だいたいのところ、小型犬の方が威勢がいいのはなんでなんだろうな。
触ったこともなければ、挨拶したこともない。偶然、名前だけ知る機会があった。
何歳かも知らない。立ち姿が立派だから、若い盛りかも。でも、思えばずっとあそこの家にいる気がするから、意外と高齢かもしれない。
大きい犬は不思議だ。なんか、そこにいるだけでありがたい。そりゃ一緒に遊べたら楽しいかもしれないけど、今日も元気そうだなって眺めるだけでなんかほっとする。
まさしくそんな感じの、大きい犬のお話が描かれた短編がスケラッコさんの「大きい犬」です。
短編集「大きい犬」に収録されています。
犬好きの高田くんが、ひょんなことから出会ったとてつもなく大きい犬。
Amazonより
その犬はずっと昔からそこにいて、飼い主がいなくて、名前もなくて、少し退屈そうだった……発表から3年以上経つ今も話題となり続けているデビュー作「大きい犬」を表題に、その後日譚となる描き下ろし「小さい犬」ほか7編を収録した作品集。
実力派新人・スケラッコの楽しい線が紡ぐ、穏やかに不思議でやさしい世界。
この大きい犬は、本当に大きい。秋田犬どころの話じゃない。住宅と同じくらい大きい。
大人しくて、あまり吠えないし、小食らしい。ずっとそこにいるから、ご近所さんにとっても、もう当たり前の存在になっている。飼い主はいない。大きすぎて、人と一緒に暮らすには不向きだから。特に何か不満があるわけではなさそう。でも、ちょっと退屈そう……。
ある日、大きい犬の近所に、高田君という青年がやってきた。
高田君は犬語が喋れる犬好きの青年。大きい犬と仲良くなりたくて、ソーセージを手土産に持っていったり、こっそり彼をペロと呼んだり。
日常の中に、大きい犬がそこにいることが嬉しい高田くん。他愛もない会話をしたり、手土産を持っていったり、そんな風に、日々は過ぎていった。
ある夜、高田くんは大きい犬に、沖縄旅行に行く話をした。大きい犬は、おきなわにどんなものがあるか知らなくて、高田くんの話をじっと聞いていた。
そして高田くんは旅行に出かけ、しばらくして帰ってきたのだけど、いつも大きい犬がいた場所は、空き地になっていた……。
大きい犬はどこに、どうして、行ってしまったのか?
最後はじんわりほっこりする素敵なお話です。
「大きい犬」にはそんな、当たり前の日常にちょっと不思議なスパイスが加わった短編が他にも7作収録されています。
私はこの本の描きおろしの「小さい犬」も好きです。
小さくて馬鹿にされがちな小型犬が大きな犬に嫉妬するのですが、大きな犬には大きな犬としての悩みがある。大きくて不便なこと、小さいことが羨ましいこともある。
違いのある者同士、隣の芝生は青く見えるけれど、認め合えたら幸せだよねと思わせてくれるお話です。
疲れ気味の心に効く一冊。おすすめです。
なんと……「大きい犬」だけならこちらで全部読めるみたいです。
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