人間というヒーロー「スタン・リー: マーベル・ヒーローを創った男」

スパイダーマン、アイアンマン、
ファンタスティック・フォー、
X-MEN、ハルク、ドクター・ストレンジ……世界中で人気のヒーローたちを数多く世に送り出したマーベル・コミックスの巨匠は何を考え、どう生きてきたのか。
10代で黎明期にあったコミック業界に入り、やがてアメコミ界のレジェンドになるまで、異能のクリエイターがたどった山あり谷ありの人生を、米国のエンタメビジネスの盛衰とともに描く。
個性あふれるヒーローたちの誕生秘話とともに、スタン・リーのキャリアに常に付きまとったトップとの確執や不透明なビジネス環境のもとで働き続けることへの葛藤など、語られざる苦悩にも光を当てた傑作評伝。

Amazonより


マーベル̪シネマティックユニバース、通称「MCU」が世界的に大成功を収めてから、日本でのアメコミヒーローの認知度も上がったように思います。

そして彼らとともにその存在感をあらわにしてきたのが、なんかどの作品にも登場する謎のおじいちゃん。

笑顔がすてき

彼はたくさんのMCU作品に登場しますが、特定のキャラではなく、いつも別の役です。


ある時はアイアンマンへ荷物を運ぶFedEx宅配員、ある時は異星で雷神ソーの紙を丸刈りにし、ある時はスパイダーマンを怒鳴りつける一市民…。


彼が何者か知らなくても、彼がスクリーンに登場した瞬間、一部の観客がざわめいたり笑ったりするのを聞いたことがある人もいるんじゃないでしょうか?


先ほど、「特定のキャラではなく、いつも別の役」と書きましたが、これはある意味大間違いですね。

彼を知る人であれば、彼がどんな役を演じていようと、彼でしかない。


彼の名はスタン・リーStan Lee)。本名はスタンリー・マーティン・リーバー(Stanley Martin Lieber

数多くの有名アメコミヒーローの生みの親であり、2018年に95歳で亡くなるまで多くの伝説を残した人物です。


今回の本は、そんなアメコミ界のレジェンドでありゴッドファーザーでもあるスタンリー自身の生涯と、彼が深く携わったアメコミの商業的歴史とともにまとめられています。


しかし、スタンリー生誕にまで遡るとほとんど一世紀。その上、スタンリーのある種はちゃめちゃな性格上、彼についての「真実」というのは結局スタンリー自身にしかないため、所々憶測や推測で書かれている点もあります。


それでも、アメコミの製作裏や、当時のアメリカ事情などが淡々とした文章で綴られており、読みやすく興味深い一冊です。


この本は映画しか知らない人の方が楽しめるかもしれないと個人的に思いました。


現在、映画化で苦戦を続ける「ファンタスティックフォー」こそが、苦戦を強いられていた昔のマーベル、そしてスタンリーを表舞台へ押し上げる始まりだった事実(それでも、スタンリーが一番好きなのはスパイダーマンだというのもちょっと面白い)


現在は、何やらワーナーとのゴタゴタで方向性が定まらず、MCUに遅れをとっている「スーパーマン」「バットマン」そして「ジャスティスリーグ」を持つDC。

しかしかつては全く逆。マーベルこそ映像化でもコミックスでも追いつきたいが、DCは遥か彼方を行く…ほとんど軍門に降るような心持で辛酸を舐めた時代があったのです。


面白い作品を提供したいという気持ち以上に、とにかく売れるものを!金になるものを!という方向性のトップが、結局コミックスをよく知らないので、買収で自分たちが手に入れたのはスーパーマンではなく、スパイダーマンだと知るや文句を言ったというエピソードなんかは、今では想像できません。(とはいえ本当にそういう文句を言ったかは、定かではないようです。それでも、そんな噂話が出る程度には、経営者側のコミックス知識が貧弱だったのは事実)


そんなふうに、今のMCUしか知らない人には色々と衝撃かもしれないことがたくさん書いています。


そして、スタンリーがそんな波乱の中をどう生きてきたのか。


一部では有名な、作画担当のカービーとの対立…別れ。


貧乏だった子供時代…戦争時代…。


自分の中の「本当にやりたいこと」との折り合い…。


漫画、コミック、アニメは子供向けで大人が見るものではないという風潮は、アメリカにしろ日本にしろ今も根深いですが、当時のアメリカでそれはさらに顕著でした。


そんな時代にあって、スタンリーもまた、いい大人がコミックスに関わる仕事をしていることが恥ずかしいと考え、もっと別のことがしたいと考えていました。

しかし、幼少期に貧困を経験しているスタンリーは、安定した給料を得られる仕事を持つ大切さと難しさも理解しており、葛藤します。


ある種の成功者として語られることも少なくないスタンリー。


そんな彼しか知らない人がこの本を読めば、フィクションを描いて人々に夢を与え続けるその裏で、傲慢と誠実を綱渡りして現実を生き抜いた一人の男の姿が見えてくると思います。


それは聖人でも神でもない、どこまでも泥臭い人間の姿ですが、まさしくそれはスタンリーの描いてきた、類稀なる能力を持ちながら常に思い悩む一個の人間「ヒーロー」の姿そのものです。

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この記事を書いた人

フィンランドに住みたい研究者かつフリーのWebデザイナーかつコーダー。
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